ひとりしゃぶしゃぶ 大阪発祥物語

ひとりしゃぶしゃぶ
大阪発祥物語

一人しゃぶしゃぶが大阪初上陸
新旋風を巻き起こす

1970年頃の様子
創業者の写真

千里しゃぶちんが創業したのは1972年のこと。当時日本は、高度経済成長を遂げたばかりの活気に満ち、1970年に開催された日本万国博覧会(大阪万博)は、アジア初の国際博覧会として大きな話題を呼びました。メイン会場となった千里丘陵には世界中から6,500万もの人が訪れ「世界の千里」と呼ばれたそう。その地で私たち千里しゃぶちんは、初めの一歩を踏み出しました。
当時はまだ「しゃぶしゃぶ」と言えば、料亭のような格式ある場所へ足を運び、数名で鍋を囲んでいただく高級料理。一人で食べるスタイルはあまり知られていませんでしたから、大阪初の一人しゃぶしゃぶの店・千里しゃぶちんの誕生は、府民にとって非常に画期的な出来事でした。自分専用の鍋でいただく特別感、カウンターに腰掛けて食べるカジュアルさ、さらに自家製だれのおいしさも手伝って、わずか15坪足らずの店には、大阪だけでなく他府県からも大勢のお客さんが詰めかけました。足繁く通う常連さんも少なくなく、なかには「千里しゃぶちん好き」が高じて同じ業態の店を開業した人もいるほど。こうしたファンの後押しもあって一人しゃぶしゃぶは次第に大阪中に広まっていきました。

野菜の登場によって
一人しゃぶしゃぶの新たな魅力を発見

続く2代目の時代になると野菜メニューの充実に取り組むようになりました。医食同源の考え方によると、私たちの体を作るのは日々口にしている食べもの。健康のためには、日頃からバランスの良い食事が欠かせません。その点、一人しゃぶしゃぶは、多品目の具材を一度に食べることができ、肉も野菜もきっちり一人前盛り付けてあるので過不足なく栄養を摂ることができます。この新たな価値に気づいた2代目は、各地から新鮮で栄養価の高い野菜を取り寄せ、一人あたり15種類以上、計300gと、ボリュームたっぷりのセットにし肉と一緒に提供し始めました。ちょうど当時は、健康志向が強まり食生活への意識が高まっていた時。「おいしくて健康的な料理」を求めて千里しゃぶちんを訪ねてくださるお客様が増えました。

本当においしい肉をおいしいまま
お客様のもとへ届ける

そして現在、3代目となる私たちが力を入れているのが肉の追求です。近年は熱心な畜産農家が増え、高品質な銘柄肉が広く流通するようになりました。肉の価値が上がり、それだけお客様の期待が大きくなった分、こちらもしっかり吟味したものをご提供しなければなりません。私たちは、たんに産地や銘柄で判断せず、一つひとつ実物を見て、肉のツヤ、弾力、脂のつき方を審査し、食べている餌の安全性まで細かく確認した上で、納得いったものを仕入れています。
また肉の風味をいかに守るか、保存法についても研究を重ねてきました。特に最近は、物流技術が発達し、肉は真空状態で冷凍され店に届きます。しかし、これによって肉に含まれる水分が凍り体積が増えるため、細胞を傷つけその部分から旨みが流れ出てしまうのです。しゃぶしゃぶにした時、肉からアクが出るのはこのため。いくら良い肉を仕入れても、味が台無しになってしまいます。
「せっかくなら、肉本来の風味をお客様に余すことなく味わっていただきたい」。その思いから、千里しゃぶちんでは冷凍前に独自の熟成法を取り入れています。一般的に「熟成肉」と言うと、湿度や温度を調節し、肉の旨み成分・アミノ酸を増加させることを指しますが、千里しゃぶちんの場合は、肉の水分量を調整することが目的。さらしを巻いて一定期間保管することで、凍っても肉の細胞を傷つけない理想的な水分量を叶え、本来の旨みを内側に閉じ込めることができます。

昭和、平成、令和、
三世代受け継ぐ伝統の味

創業者の若かりし頃

この50年、野菜を加え、肉を吟味し、昭和から、平成、令和へ。千里しゃぶちんは時代とともに変化してきました。しかしその一方、一切変えずに守り続けてきたものもあります。それは、自家製のだれ。これだけは、創業時のレシピをずっと守り続けています。まったりなめらかなごまだれと、スダチの香り豊かなポン酢だれは、料理好きだった初代が何度も試作し丹精こめて作り出したもの。創業当時、我が家で月に一度、親族が一斉に集まり、みんなで自家製だれを作るのが恒例行事でした。現在3代目としてお店に立つ私たちも小学生の頃から、味噌、ごま、だし……とそれぞれ役割が決められ、ズラリと並んだすり鉢に一生懸命調味料を入れたものです。いまや時代が変わりずいぶん便利な世の中になりましたが、現在もこの自家製だれだれは、ごまを擂り、手間と時間をかけ全て自社内で行っています。
 こうして代々変わらぬ味を継承できるのは、もちろん初代が遺したレシピのおかげでもありますが、もう一つは「やっぱり千里しゃぶちんのたれでないと。他所には行かれん!」と創業時から通ってくださる常連さんがいてくださったからこそ。50年もの間、厳しくも温かい目で千里しゃぶちんの伝統を共に守り育ててくださったお客様のおかげです。/p>

目指すは「関わってくださる全ての方に元気になっていただく」

現在、大阪の街を見渡すと、一人しゃぶしゃぶの店をあちこちに見つけることができます。初代が創業した店が食の都・大阪に新たな息吹をもたらし、今もしっかり定着していることを私たちは誇りに思っています。
次に私たちが目指すのは、「千里しゃぶちんの一人しゃぶしゃぶを通して、関わってくださる全ての方に元気になっていただく」こと。おいしい食事で心が満たされ満足し、心と体に幸福が満ちて元気になる。お客様をはじめ地域社会、共に働くスタッフ……関わってくださる全ての方に元気になっていただくことが、これからの私たちの目標です。